地元・福島の人たちが抱える“仕方ないなんて思えない現実を仕方ないと思わざるを得ないつらさ”

 一昨日のことですが、僕の車は初めての車検を迎えました。車検は無事通って、費用も思ったより安く済んで良かったのですが、その日は一つ大きなショックを受けました。


 僕の車のナビはメーカー純正で、最初の車検時に地図データを無償更新してもらえます。ただ、更新のセットはその車を買ったディーラーに届くのだそうです。僕は今回の車検は自宅近くの茨城県つくば市のディーラーで受けたのですが、買ったディーラーは、いろいろな都合上、地元の福島県南相馬市のディーラーでした。


 まあ、そういう話を車検を受けたディーラーから聞いたので、南相馬市のディーラーの当時の営業担当のSさん(仮称)の携帯に連絡を入れてみました。Sさんは、僕の家族も長年お世話になっている方で、電話をすると3年ぶりの僕のことも覚えていてくださりました。そして、カーナビの地図データの更新の話をすると、慣れた様子で普通に対応してくださりました。


 で、ひと通り説明を受けて、僕が「分かりました」と電話を切ろうとしたその時でした。Sさんは「実は・・・」と話を切り出したのです。その話とは、大まかに言えば以下のようなことでした。


荒木さんは遠方にお住いのお客様なので連絡が遅くなって申し訳なかったのですが、今回震災があって、荒木さんの地元も大きな被害を受けられたと思います。
弊社は、これまで南相馬市に2店舗運営していました。
でも、今回の震災でそのうちの私がいた店舗の復旧の目処がたたず、市内のもう1店舗に人員を集約することになりました。
とはいえ、2店舗分の人間が1店舗に集まるわけですし、震災後、人口も減っていますから、仕事自体も多くはない状態なわけです。

その結果、私、実は解雇されてしまったんです・・・。
で、聞こえは悪いですが、私はいま無職なんですよね・・・。

でも、先ほどのカーナビの地図データ更新の件は、私の方で店舗の担当者に連絡を入れて、その結果を荒木さんにご報告しますので!

 Sさんは、僕にそう告げたのです。僕は、一瞬どう言葉を返したら良いのか分からなくなってしまいました。さっきまで普通に対応してくれてたSさんが解雇!?嘘だろと思いました。


 電話を切った僕は、軽く動揺していたように思います。そしてそれと同時に、自分が解雇されている身であるにもかかわらず、自分の大切なお客様として、全くそんな素振りもせずに責任を持って真摯に対応してくださったSさんに、大きな感謝と申し訳なさの念がこみ上げてきました。


 震災、そして原発事故という、やむを得ない事情とはいえ、自分が解雇された会社に連絡をとって対応してくれる。そういう親切な対応をしてくださるSさんに対して、こんなことさせて良いのだろうか。なんて僕は非情な奴なんだ。しばらく自問自答しました。


 考えてみれば、僕の地元には、このSさんのように本当に気の毒な状況に立たされている方が大勢いるのだと思います。先日、別な地元の親類と話をした時も、もうこの頃は失業手当が切れてきて、大変な状況に陥る人も増えるのではないかというような話もしていました。


 原発の影響があまり無い宮城や岩手の被災地は、もちろん大変であることには変わりありませんが、復興への歩みも進められているのだと思います。しかし、福島の原発近くの市町村の中には、まだまだ復興への第一歩も踏めずにいる地域、人々もいるのです。そして、その状況は今後も決して良くなるとは限らないのです。


 話は少し変わりますが、昨日のNHKのクローズアップ現代では、母校・福島県立原町高等学校(福島県南相馬市)の放送部の生徒たちが特集されていました。彼らは、震災後、自分たちの地元の状況やその状況下で模索する自分たちの様子を記録し続けていました。


記録するということは、現実を知ることでもある

 番組中、そんな言葉が出てきましたが、記録するということは、正にその場所やその対象となる相手の現実を知ることに他ならないのだと思います。そして、その現実を知るためには、相手の置かれている状況を理解できなければならないわけです。


 VTRの中では、同じ放送部員でありながらも、それぞれの部員の置かれている状況が全く異なるため、気を遣ってお互いの状況も聞けないという部員の声がありました。現地で同じ高校の同じ部活内にいても、相手の考えていることが分からない。下手なことを言ったら相手が傷つくかもしれないから怖くて聞けない。その彼らの様子を見て、関東に住んで報道を通じてしか現地の状況を把握できていない僕たちには、現地の人たちの真実なんて分かるはずがないということを痛感させられました。そして、そういう状況の中で、いろんなことを模索しながら、記録し続ける後輩たちに涙が出てきました。


「“復興”なんて言葉、聞きたくない」と日記を綴った女子生徒。

「私いま5秒で泣けるよ」と冗談っぽくおどけてみせる女子生徒。


 でも、本当は冗談でもなんでもないはずです。仕方ないなんて思えない現実を仕方ないと思わざるを得ないつらさ。地元のみんなは、そういうやるせない気持ちを抱えているのだと思いました。そして、Sさんも正にその一人なのだと思います。


 2012年は復興の年だと日本中が盛り上がっていますし、それは大いに結構です。そういう勢いのある一年にしたいと僕も思っています。でも、その一方で、その復興という言葉が程遠いほどの現実があるということも、このブログを読んでくださった皆さんには知ってもらいたいですし、忘れないでもらいたいなあと思います。復興は、インフラ面の整備だけではありませんし、新しい街をつくることだけでもありません。本当に復興した時というのは、人々の心が復興した時なのだと思います。