岡ちゃんはやっぱりすごい人なんだなあ

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 先日11月12日に、NECのC&Cユーザーフォーラムに行ってきました。はやぶさが展示されていたりもしたので、かなりの大入りだったのですが、その中で岡ちゃんこと、サッカー日本代表前監督の岡田武史監督の講演がおもしろかったので、ちょいと記録しておきます。


 というか、今回のフォーラムのセミナーは、実際の講演ホールがまず一つあって、そこに入れない人は別会場でリアルタイム中継。で、それぞれの部屋とも抽選なんだけど、今回の岡田監督の講演においては、中継会場の抽選さえ漏れる始末。


 でも、どうしても聞きたいなあと思っていたので、当選した方が入場受け付けを済ませた頃に、受付のお姉さんに「抽選漏れちゃったんですけど、入ることできませんか?」とさりげなく聞いたら、快くOKを頂いたので、晴れて講演を聞けることになりました。


 で、講演ですが、いろいろと大事なことを仰っていましたので、ちょっと箇条書きみたいな形で書いていこうと思います。

トップアスリートがベストパフォーマンスをする時は、無心のような状態に入っている


 岡田監督は、この状態を「ゾーン」と呼んでいましたが、この状態は入ろうと思って入れるのではなく、偶然入れるんだそう。で、今回のW杯は偶然この状態に入れたんですって。


 このゾーンに入るには、それこそ偶然なわけなので“具体的にこれが要因”みたいなのは掴めないとは言ってたんですけど、でも、チームづくりの過程で、今回のW杯に賭けていた中村俊輔や楢崎をレギュラーから外したり、中澤をキャプテンから外したことは、全て計算した上での決断で、チームをゾーンに持っていくための一つの手段だったんだとか。


 そして、岡田ジャパンは、W杯直前に四連敗をして、メディアやサポーターには叩かれまくり、W杯での戦いも心配されたわけですが、岡田監督は、あそこであれだけ叩かれたことで、このチームはゾーンに入れると思ったんだそうです。


 本当に、このゾーンという状態に入るということは難しいですし、何がそのキッカケになるのかも、その時になってみないと分からないみたいなところがありますよね。でも、そのための最善の準備というものはあるわけで、今回の岡田ジャパンはその部分の準備は相当計算ずくでやっていたんだなというのを思い知らされました。

チームの最上位の共通認識として、本気の志を置くことが重要


 今回の岡田ジャパンの志、それは皆さんご存知の通り「W杯ベスト4」だったわけですが、この「W杯ベスト4」という志を掲げた岡田監督は、選手個々人に話を説き、皆それぞれに「W杯ベスト4」と紙に書かせたんだそうです。


 もちろん、選手自身が志を掲げて、紙に書いたからって、その目標が実現するわけではありません。しかし、岡田監督はこう言ってました。


『W杯ベスト4に行くために、世界で勝つために、パスやシュートの精度を高めるとか、守備の組織力を高めていくとか、要は、末端の細かいところから改善しようとしても、これはなかなか変わらない。しかし、「W杯ベスト4」のように一番上位概念である本気の志を共有すると、パスやシュートの精度といった、下にくっついてくる細かなことはオセロのように変わる。例えば、良くないパスをしたときに、「そのパスでW杯ベスト4に行けるのか!!」と言うと選手はその瞬間に理解するし、練習でもその目標のために自分は何をすべきかを、選手だけでなく、スタッフも含めて考えるようになった』と。


 そしてこの志を、岡田監督はまず、中澤、中村俊輔、楢崎に個別に伝えたんだそうです。会社でいうところの、管理職みたいなもんですね。そして、彼らがその志を共有し、そこに向かうようになると、ピッチ上に監督のコピーを置くような感じになったんだそうです。


 これって、企業の経営においても、すごく通じるところがありますよね。同じベクトル、同じ志をいかに強く共有し、皆が同じイメージをいかに持ち続けられるか。このことは、スポーツにおいても、企業経営においても、すごく重要なことなんだなということを改めて感じました。


 そして、この件で2006年のジーコジャパンの例もお話されてました。ジーコの時は、初戦のオーストラリア戦に負けて、次の日の練習で、選手たちが居残りでシュート練習を繰り返したんだそうです。岡田監督は一括。


『それじゃあ、遅いんだよ。こういういざとなってからやるのではなく、もう何年も前から志の部分を強く共有して、そこに向かうようになるのが重要なんだ』と。

教育は空のコップに注ぎこむのではない、引き出すものである


 教育というと、一般的には空の状態のコップに、上から水を注いで“教えて”いくというようなイメージがありますよね。でも本来は、個々人が胸に秘めたものを、いかに引き出させるかが重要だというお話をしていました。


 例えば、代表選手であるならば、当然ながら皆「勝ちたい」と思っています。でも、周りの影響などいろいろなことがあるうちに、選手自身も「勝ちたい」という想いよりも、自分を守ろうとしたりしてしまうようになるんだそうです。


 では、引き出すにはどうするか。そのためには、まずは信頼関係を築くこと。そしてその上で、教える、理屈で納得させるのではなく、気づかせることに徹することだと仰っていました。


 岡田監督というと、イメージでは理屈で納得させる感じがありますし、実際に以前は岡田監督自身そのイメージ通りで、しかもそれが得意だったらしいのですが、今回の代表チームを率いる中で、これは本当のマネジメントではないと気づいたんだそうです。マネジメントをしながら、自身のマネジメントの欠点に気づいて、新たな手法を確立して成果を出す。スゴイですね。

愛情を持たなければ選手は付いてこないが、情はいらない


 日本代表監督という立場上、岡田監督は、選手を選ぶという決断をしなければなりません。これは、自分の人事の考えを日本中から評価されるようなもので、とてもプレッシャーを感じる仕事の一つだと思いますが、この決断において冷静な判断を下すために、岡田監督は選手に情を介入させることを一切拒んだそうです。


 ですから、選手と一緒に飲みに行ったりもしませんし、常に意識してその一線を引いていたわけですね。そりゃそうですよね。昨日一緒に飲んでいた選手に、今日「クビ!」とは言えないですからね。


 ただ、情はいらないけれど、愛情無くしてはうまくいきません。かといって、何か特別なことをするわけではなく、常に気遣ってあげること、見ていてあげることが重要だと仰っていました。


 なので、試合で良いプレーでもすれば、次の日の練習で「昨日あの場面は良いパスだったな!」と声を掛ける。「あれ、そろそろ子ども5歳の誕生日じゃないか?」と声を掛ける。こうしたさりげない気遣いで、選手は自分を見ていてくれてるんだなと感じるわけです。

チームは認め合うことが重要


 今回の岡田ジャパンは、代表チームとしては稀というぐらい、選手の仲は良かったと傍から見てて感じましたよね。ただ、チームというのは、どんなチームであっても、全員が全員仲良しなんていうことは、まず有り得ないと思います。


 でも、岡田監督は「チームは仲良しである必要はない」と言い切っていました。仲良しではなく、認め合うことが重要だというわけです。そして、その認め合うためにするのが、コミュニケーションだと仰っていました。


 企業経営でもそうですよね。チームのメンバーを認め合って、この部分はAさんが得意だから、Aさんに任せよう。ここはBさんというように、お互いがお互いを信頼し、認め合うことが出来れば、非常に強いチームになりますよね。加えて、上述した志の共有ができていれば、尚さら良いと言えるでしょう。


 ま、こんな風に、上記の他にも、「決断したら振り返らない」とか、「負けず嫌いと勝つのが好きは違う」とか、大事なことをいろいろと仰っていて、無理やりですが入室されてもらえて、本当に良かったなと思いました。


 スポーツの世界と企業経営の世界は、もちろん異なる部分もありますが、多くの部分においては共通していると思います。だからこそ、日本代表監督として二度もW杯にチャレンジした岡田監督の言葉には、強く共感させられたのかなと思います。


 岡田監督は、のび太くんみたいな(←自分で言ってましたw)ただのおっさんと思っている、あなた。いやいやいやいや、あのおっさんは、本当にすごい人です。これから、どんな道を歩むのかは未知ですし、興味もありますが、いちビジネスマンとして、岡田監督のマネジメント論は、もっともっと勉強したいなと思いました。


 また、こういう機会があると良いな。今回は入室させてくれたNECのお姉さん、本当にありがとうございました。


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