成熟国家が抱える2億円のからくり

 昨日はあるフェアに行って来まして、講演をぶっ続けで3本聞いたので、そのうちの一本について、少しメモを残したいと思います。もう一本も、そのうち書くかもしれませんが、それは後ほど。


 で、その一本は東洋大学の松原聡教授の講演でした。皆さんは松原さんという方をご存知でしょうか?小泉元総理の有力なブレーンで、サンデープロジェクトで以前コメンテーターをやっていたり、朝まで生テレビとかにも出てるらしいですが、僕はこれらの番組はほとんど見ないので、たぶん知らないなあという方でした。でも、経済学の世界では有名な方なのでしょう。


 まあそれは良いとして、昨日の講演テーマは「成熟した日本のこれからの経済はどうなる」というものでした。その中で一つ驚いたことがあったので、ご紹介したいと思います。その話というのは、女性の生涯所得の話です。


 皆さんは大卒女性の生涯所得って、どれくらいだと思いますか?実はこれが結構な額で、働き続けた場合の生涯獲得所得は28,560万円にも上るんだそうです。しかし、女性は出産ということがありますので、出産、育児のために一時退職をして、子育てが落ち着いたらまた再就職するという方も多いですよね。その場合の生涯所得は20,083万円なんだそうです。


 しかし、こうして正社員として再就職できる企業がそんなにあるかと言ったら、まだまだそうとは言えないのがこの日本です。そのため、出産、育児後の女性はパート社員という道を選ぶ方が結構多いですよね。ところがです。このパート社員になった場合の生涯所得の額にはビックリさせられます。その額、何と4,768万円。一気にここまで減ってしまうわけです。これ、すごくないですか?


 企業は、女性は寿退社や出産・育児での長期休養があるため計算しづらいなどとよく言いますが、そんなことは言い訳に過ぎなくて、実際にはパート社員の方がこんなにも安いコストで雇用できるというからくりもあったわけですね。そして、そのからくりとともに、日本企業の制度や文化が長らく変わっていないという問題もあるのです。それ故、「産休・育休OK」と言いながらも、なかなか取りづらかったり、復帰後も融通が効かない企業はまだまだ多いのではないでしょうか。


 こうした事態を打開すべく、厚生労働省は、2003年に「くるみんマーク」を導入して、子育て支援などで一定の基準を満たした企業の広告や商品に、くるみんマークを付加できるようにしました。実は僕の会社では、このくるみんマークを取得しています。ですから、たぶん世間の会社よりは、女性の子育て支援には積極的で、いま僕のフロアだけでも3人の女性が1年ぐらいの休暇に入っています。でも、こういう企業はまだまだ少ないはずです。


 埼玉県では、制度から5年経過した2008年時点で、くるみんマーク取得企業がわずか3社にとどまるなど、力を入れている企業が多くないのが現状です。でも、労働人口がこれから減少の一途をたどる日本で、女性の力を活用しないわけにはいかないですし、マーケティングなどの世界では、ただ単にマンパワーのためではなく、女性ならではの視点が求められてもいるわけです。


 一方、サイボウズの青野社長はこれらの支援にかなり積極的で、イクメンの代表のような方ですが、青野社長は今度は週休三日にするというようなニュースを新聞で見かけました。その記事では、男性の育児休暇ももっと取られるべきだと仰っていました。でも、そういう文化がなかなか受け入れられないのが今の日本なのです。雇用コスト軽減や男性が変な権力を保ちたいがために、女性が働くためのサポートをしないのだとすれば、それは大きな問題ですよね。


 このように文化や制度が変わらず、生涯所得もここまで減ると分かれば、結婚しない女性が増えるのも頷けます。少子化も頷けます。加えてこんなデータもあって、少子化とは言うものの、結婚した男女の出生率はそれほど下がっていなくて、結婚しない男女が増えたため、出生率が下がっているんだそうです。日本は外国に比べて、いわゆる事実婚などが少なく、「子供が生まれる=結婚」の場合が多いわけで、「結婚しない=子どもが生まれない」になってしまうわけですね。


 とまあ、この企業の子育て支援に関する関心の無さや制度の不整備は、女性の能力を無駄にし、結婚を遅らせ、少子化を呼び起こし、所得を2億も減らし、内需を減らし・・・と、どんどん負のスパイラルにつながっていきます。女性の力を活用しなければならない時代はいずれ来るというか、すでに来ているとも言えるわけですから、このイクメンブームが来ている今のうちに、手を打つべきなのではないかと昨日はつくづく感じました。松原さんも最後にこんなことを言ってましたよ、


 「成熟社会だからこそ、国づくり、そして、国や企業の戦略が重要になる」と。成熟化した日本という国、そして日本企業がどう生き抜くかを、世界中が注目しているのです。