今井正人が今井正人たる所以

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 一昨日の福岡国際マラソンをご覧になった方はいらっしゃるだろうか?たぶん、このブログの読者(たぶんそんな固定読者はいないと思うけどw)の方の中にも、見たという方は少なからずいるだろう。今年の福岡国際マラソン、テレビ朝日は今井正人を異常な程に取り上げ、一般参加の彼が主役扱いで中継された。結果は、以下の通りである。


福岡国際マラソン 日本勢「攻め」「守り」 ともに悔しさ


 今井正人、彼は実は僕の中学の後輩でもある。中学時代は同じ野球部で、僕が3年の時の1年生が正人たちの世代だった。彼が陸上の世界で頭角を表したのは、中学に入ってから。中体連前の特設の陸上部に駆り出されて、中体連の県大会で優勝したり、東日本縦断駅伝で大活躍をしたりしながら、一気に長距離界で名を轟かせるまでになった。


 野球部といえば、寒い時期はランニングも多い。部活の中で、正人とも一緒に走った記憶があるが、やっぱり正人は異常に早かった。ちょっと早めに走ってみてと言うと、到底僕らが付いてこれないようなスピードで走り、「試合ではもっと早いですよ」とひょろっと言ってのける。その光景は鮮明に覚えている。


 そうしていつの間にかあそこまで有名になった正人だけど、彼をそこまで登り詰めさせたのは、僕は彼の人間性の良さだと思う。陸上の才能もたしかにある。野球もセンスが良くて上手かった。正人は、総じて運動神経が良いとは思うけど、それより何より、正人は人間性が良かった。


 誠実で素直で真面目で努力家でリーダーシップがあって、でも面白いし、茶目っ気もあるし、エロかったりもするし(笑)。まあとにかく、誰からも好かれるような人間なのだ。同級生からも、僕たち先輩からも、そして後輩たちからも好かれる。


 きっと、それは指導者にとっても同じことで、高校時代の畑中先生や順大の仲村監督、そして今のトヨタ自動車九州の森下監督も、教え甲斐があるというか、“コイツには教えたい。伸ばしてやりたい”と思わせるような選手であったことは間違いない。そして、それを正人は柔軟に吸収し、そして人一倍努力する。才能はもちろんあっただろうけど、その才能を開花させたのは、彼自身の人間性に他ならないのだ。


 話は前後するが、正人は滅法ロードに強い。それは、中学時代からずっとそうで、前途した東日本縦断駅伝をはじめとした中高時代の駅伝やロードレース、また大学に入ってのあの箱根駅伝、そして社会人になっても、とにかくロードでは強かったし、失敗したレースは僕はほとんど知らない。正にマラソン向きのランナーなのだ。


 だからこそ、今回の福岡国際マラソンのあの苦しい姿は、彼を知る者に衝撃を与えたのである。今回のマラソンを見て、「やっぱり今井は山の神止まりだ」と思った人もきっといることだろう。たぶん、彼に実際に接したことがない、でも、彼を知っているとか、ファンだなんていう人ほど、そう思ったのではないだろうか。


 でも、実際はそうではないはずだ。これは信じているからとか、そういう次元のことではなく、彼の持つ底力というか、何苦楚魂みたいなものはこんなものではないし、それを絶対に結果として示してくれるということが、彼に接した人間なら分かるのである。これは本当に不思議だが、分かるのだ。


 今回の福岡国際マラソンは、たしかに結果だけ見れば失敗だったかもしれない。正人はどう思ったのだろうか。あの悔し涙を見ると、やっぱり不本意であったことには間違いないだろう。しかし、今回のレースの結果をどう活かすかを彼は心得ているに違いないという確信がある。


 今回のような結果となれば、マスコミや一般の人たちに、マイナスに書き立てられるのは仕方ないことではある。実際に、そういう記事やブログを僕も見かけた。そういう言われようで、潰れてしまう選手も少なからずいるだろうけど、こと正人に限ってはまずそんなことはあり得ない。昔からの強い信念を持っているからである。


 世界選手権代表の座を狙うために、来年の2月、3月の大会にチャレンジするかはまだ分からない。もちろん、今回の悔し涙は、世界選手権代表に内定するに値しない結果だったことでの悔し涙でもあっただろうから、もしかしたら再チャレンジするのかもしれない。


 でも、彼が直近一番の目標と定めているのは、2012年のロンドン五輪である。そこに本人も一番の照準を合わせているだろうし、彼を知る人間もそれを見据えて、今回の福岡国際マラソンの結果を見たと思う。なので、次回の世界選手権代表を目指して、再チャレンジするかどうかは、もちろん正人が決めることではあるけれど、無理をすべきでないのも事実であるとは思う。一度マラソンを走った後のダメージや、次のマラソンにピークを持っていくための大変さは、想像以上のものがあるからである。


 今回の福岡国際マラソンでの正人の悔し涙を見て、日本陸連沢木啓祐専務理事は「勇気ある挑戦だった。負けての涙を見たのは久しぶり。評価しちゃいけないけど」とコメントしたという。“久しぶり”、これが他の選手には無い正人の強さなのである。


 負けて悔しくない選手はいない。しかし、どれだけ悔しいと思うか、そしてその悔しさをバネにどれだけ飛躍できるかは、人によって大きな差がある。正人の、今回の悔しさで収縮し反動するバネの力強さには、大きな期待を感じざるを得ないのである。きっと、正人はやると思う。


 本人にとっても、あんなに苦しいレースは初めてだったかもしれない。でも、だからこそ、その苦しさ、悔しさを克服し、飛躍するために彼は人一倍の努力をするだろうし、そういう過程の中で、たぶん一皮剥けるんだと思う。


 彼にとって、今回の福岡国際マラソンは、実質的なマラソン初挑戦だった。彼の目標、すなわちマラソン五輪代表に向けて、スタートを切ったに過ぎないのである。そのスタートで、こういう挫折を味わうのは悪いことではないはずだ。今回の試練は神様が与えてくれた大切なプレゼント。試練を苦しみと感じるのか否かは大きな差であり、正人にとっては成長のチャンス以外の何物でもないと思うのである。


 今回のレース、そしてレース後の涙に、僕は大きく心を動かされた。だからこそ、こんな記事を書いたわけだけど、後輩である彼から学ぶことは非常に多い。すなわち、彼の人間性であり、姿勢であり、情熱であり、行動であり。一方はアスリート、もう一方はビジネスマンと、進む道は違えど、彼から学ぶことは多いのだ。


 正人は、昔からそうやって周りの人間を動かしていくヤツだった。その理由は何なのかとこうして思い返すと、全ては彼の人間性だったのである。それを再確認した時、今回の福岡国際マラソンは、彼にとって目標に向かうためのプロセスの一つに過ぎず、成功でも失敗でも無いと確信したのだった。


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